東京地方裁判所 昭和28年(モ)2698号・昭28年(モ)2648号 判決
一、昭和二十八年(モ)第二六四八号事件について、
当裁判所が債権者(被申立人)と債務者(申立人)等間の昭和二十八年(ヨ)第一一四九号議決権行使停止仮処分事件について昭和二十八年三月九日なした仮処分決定はこれを認可する。
二、同年(モ)第二六九八号事件について、
債務者(申立人)等の申立はいずれもこれを却下する。
三、訴訟費用はいずれも債務者(申立人)等の負担とする。
二、事 実
債権者(被申立人)代理人等は、昭和二十八年(モ)第二六四八号事件について主文第一項と同旨の判決を、同年(モ)第二六九八号事件について主文第二項と同旨の判決を各求め、
昭和二十八年(モ)第二六四八号事件について、
申請理由として、つぎのとおり述べた。
「(一) 債権者(被申立人)会社(以下、単に債権者会社という。)は、大正八年設立にかかる百貨店業及びこれに関連する物品の製造、加工、卸売等の営業を目的とする一株の金額五十円、発行する株式の総数四百万株、発行済株式の総数四百万株の株式会社で、肩書地にその本店を有し、百貨店業を経営し、各種商品の販売をしてきたが、昭和二十五年六月ごろより右営業の一環としてさらに外国製日用品の販売業を営んできた。
(二) しかるところ、債務者(申立人)会社(以下、単に債務者会社という。)は、昭和二十七年九月ごろより翌二十八年一月三十一日までに至る間債権者会社の株式を、自己名義で合計五十二万六千六百六十株を、債務者(申立人)横井(以下、単に債務者横井という。)名義で合計十九万五千株を、債務者(申立人)佐藤名義で合計三十万株を、債務者会社の役員、縁故者等名義で合計二千七百株を(以上合計百二万四千三百六十株)それぞれ買い受け取得し、昭和二十八年一月三十一日現在いずれもその名義書換手続を了した。
(三) しかしながら、債務者会社は、昭和二十二年設立せられた資本金三千万円の株式会社で、衣料品の製造、販売及び布帛雑貨の製造、販売等を営むことを目的とし、おそくとも昭和二十七年九月ごろより肩書地所在の本店等において外国製日用品の販売店の指定を受けこれら商品の販売業を営んできたもので、現在同商品の輸入用として外貨の割当を債権者会社が十八万千余弗を受けているのに対し債務者会社は七万八千余弗を受けているような次第であるから、債権者会社と債務者会社とは、いずれもおそくとも昭和二十七年九月ごろより通常の事業活動の範囲内において、かつその事業活動の施設または態様に重要な変更を加えることなく同種の商品を同一需要者に販売しているか、または販売できる状態にあるので、国内において相互に競争関係にあるものというべきである。
(四) そうだとすると、債務者会社の前記自己名義による株式の取得は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、独禁法と略称する。)第十条第二項の規定に違反すること明らかであり、また前記債務者横井並びに同佐藤名義による株式の取得は、明らかに債務者会社の右株式取得につきこれを禁止した同法第十条第二項の規定の適用を免れんとする脱法行為というべきであるから、同法第十七条の規定に違反するものである。
(五) 仮りに、債務者横井並びに同佐藤名義の前記株式の取得が実質上も同債務者等の株式取得であるとしても、同債務者等は、いずれも右株式取得当時債務者会社の役員(債務者横井は代表取締役、同佐藤は監査役)たる地位にあつたのであるから、債務者会社と国内において競争関係にある債権者会社の株式を取得することは、同法第十四条第三項の規定に違反するものである。
(六) 以上理由がないとしても、資本金三千万円の債務者会社が、その目的事業をかえりみず数億の資金を投じて前記のとおり債権者会社の株式合計百二万四千三百六十株(額面合計金五千百二十一万八千円)を取得したのは、明らかに債務者会社がこれら株式を所有することを主たる事業としているものというべきであると同時にこれら株式を所有することにより債権者会社の事業活動を支配することを目的としているものであるばかりでなく債権者会社の事業活動に著しい影響を与えるものであるから、債務者会社は右株式を取得することにより同法第九条にいわゆる持株会社となるに至つたものというべく、従つて債務者会社の前記株式の取得は、同法第九条第二項に違反するものである。
(七) 以上の次第で、いずれにしても債務者等の前記株式の取得は、独禁法に違反するものであるから法律上当然無効である。
よつて、債権者は債務者等に対し本件株式の取得無効確認(非株主たることの確認)の本案訴訟を提起しようと準備しているのであるが、債権者が右本案訴訟において勝訴の確定判決を得ても、その判決確定に至るまで本件各株式につき債務者等をして議決権の行使をせしめては、債務者横井が昭和二十八年二月一日債権者会社に対し取締役副社長の地位を要求したこと並びに同債務者が他と共謀して債権者会社のいわゆる乗取を策していること等の事実に徴し明らかなとおり、債務者横井等は右議決権を利用して債権者会社の経営に参加することにより或はその他の方法により債権者会社の事業活動に著しく制限を加えるに至るおそれがあるばかりでなく、かくては債権者会社において回復することのできない不測の損害をこうむることとなるので、これを防避するため債権者は債務者等に対し本件各株式につき議決権の行使停止の仮処分命令を申請したところ、当裁判所昭和二十八年(ヨ)第一一四九号事件としてその旨の仮処分決定がなされた。この決定はもとより至当なもので維持すべき必要があるから、これを認可する旨の判決を求める。
なお、債務者等の本件申請は不適法であるとの主張はこれを争う。」
昭和二十八年(モ)第二六九八号事件について、
答弁として、つぎのとおり述べた。
「債務者等主張の特別事情の存在はこれを争う。
本件仮処分における被保全利益ないし法律関係は、本件株式の取得の無効なること、すなわち、債務者等が債権者会社の非株主たることを確定することにより債権者会社の組織それ自体を保全することにあるのであつて、単なる経済的利益の獲得を目的とするものではないから、金銭的補償を得ることによりその終局的の目的を達することを得べき性質のものではない。」<立証省略>
債務者等代理人は、昭和二十八年(モ)第二六四八号事件について本件仮処分決定の取消並びに申請却下の判決を、同年(モ)第二六九八号事件について保証を条件とする本件仮処分決定の取消の判決を求め、
昭和二十八年(モ)第二六四八号事件について、
答弁並びに抗弁として、つぎのとおり述べた。
「一、まず、本件仮処分申請はつぎの理由により不適法として却下すべきである。すなわち、
本件株式の取得が独禁法に違反するかどうかについての審判権は、第一次的には公正取引委員会に専属するものである。しかして本件株式の取得が同法に違反する疑がありかつ右株式につき議決権の行使を停止すべき緊急の必要があるときは、同法第六十七条の規定に従いこれが専属管轄権を有する東京高等裁判所において同委員会の申立により右株式につき議決権行使の一時停止の仮の処分を命ずべきである。
以上の次第で、当裁判所は同法違反事件につき第一審としての裁判権がなく右高等裁判所の発する命令と同一の効力ある仮処分命令はこれを発し得ないものと解すべきであるから本件仮処分申請は不適法というべく、当裁判所がこれを無視してさきになした前掲仮処分決定は違法である。
二、つぎに本件仮処分申請は以下述べる理由により失当である。
(一) 債務者会社が外国製電気冷蔵庫、テレビジヨン等の電気機械器具及び洋服地等債権者会社の販売する商品と同種の商品を販売してきたことは認めるが、債権者会社は百貨店として東京都中央区にぼう大な店舗を構え、多数の従業員をようし、数万種に及ぶあらゆる商品を広く一般大衆(消費者)に小売販売をしているものであり、債務者会社は肩書地に小規模な事務所を有するほか都内銀座二丁目一番地にシヨールームを開設し、前記電気機械器具及び洋服地等の限られた外国製商品を特定の業者に対してのみ輸入卸売することを専業としているものであるから、債権者会社は一般大衆(消費者)を需要者としているのに反し、債務者会社は特定の業者を需要者としているものであつて、右両会社の需要者は明らかに別異である。債務者会社が現在外国製日用品の販売店としてその指定を受け、かつ同商品の輸入用として外貨七万八千余弗の割当を受けていることは事実だが、これらはいずれも債務者会社がメリー、コンパニーより委任されその輸入並びに販売を代行するため形式上債務者会社名義でその指定並びに割当を受けたもので、債務者会社自身において同商品の小売販売をなすためその指定並びに割当を受けたものではないし、また事実そのような商品の小売販売業は全然これを営んだことはない。
従つて債権者会社と債務者会社とは、いずれも通常の事業活動の範囲内においてそれぞれ全く異つた需要者にその商品を販売しているものであるから、相互に競争関係にあるものということはできない。
(二) 債権者会社と債務者会社の事業活動の施設または態様は前記のとおりであるから、債務者会社において債権者会社と同様の事業を営みこれと同一需要者に同種の商品を販売しこれに対抗するがためには、まず莫大な費用を投じて適当な施設を新設しかつ多数の従業員を雇い入れる等債務者会社の現在における事業活動の施設及び態様に重要な変更を加えなければならないので、債務者会社の現状においては一朝一夕にこれをなし得るものではない。従つて前記両会社は、将来においても相互に競争関係を生ずることはない。
(三) 債権者会社は都内有数の百貨店で、その販売する商品も数万種に及んでいるが、債務者会社は小規模の店舗において、しかも限られた商品を販売しているに過ぎないから、たとい右両会社が同種の商品を販売していても、債務者会社の販売する商品は債権者会社の販売する商品中の一小部分において同種のものたるに過ぎないから、これを全体的に見て社会通念上問題とするに足らない。従つて右両会社を目して相互に競争関係にあるものと解すべきではない。
(四) 債務者会社が債権者主張の日時ごろの間本件株式合計五十二万六千六百六十株を買い受け、その主張の日時現在いずれもその名義書換手続を完了したことは認めるが、債務者横井並びに同佐藤名義の本件株式の取得は、いずれも同債務者等が自己の計算においてこれを買い受け取得したものであつて、債権者主張のように債務者会社が単に同債務者等の名義をもつてこれを買い受け取得したものではない。
(五) 債務者佐藤は昭和二十八年一月三十一日既に債務者会社の監査役を辞任し、同年三月三日その旨登記を経ている。従つて仮りに同債務者の本件株式の取得が債権者主張のように独禁法に違反するかしがあつたとしてもそのかしは既に治ゆされているものである。
(六) 債務者会社は前記のとおり特種の商品の卸売を専業としているものであつて、本件株式は単にその資産株とするため買い受けたものに過ぎない。すなわち、債務者会社は債権者会社等他の会社の株式を所有することを主たる事業としている会社ではないばかりでなく、本件株式を所有することにより債権者会社の事業活動を支配することを目的として本件株式を取得したものではないし、また本件株式を所有することにより債権者会社の事業活動に著しい影響を与えたこともない。従つて債務者会社はいわゆる持株会社ではない。
(七) 仮りに債務者等の本件株式の取得行為が独禁法に違反するものとしても、有効であつて無効ではない。同法第十七条の二の公正取引委員会は事業者に対し同法に違反して取得した株式の処分を命ずることができる旨の規定に徴すれば、同法は、右処分命令の対象となる同法違反の株式取得行為も一応有効とする趣旨であることがうかがい知られるばかりでなく、またかように解しなければ法の理念たる取引の安全をそ害し不当な結果をもたらすに至ること明らかである。
(八) 債務者等は債権者会社の株主総会において計算書類をことさら否認したり或は債権者会社の役員となること等によつて債権者会社の事業活動を制限しよう等とは毛頭考えていない。
しかも債権者会社の役員の改選期は、次期(昭和二十八年九月)開催の定時株主総会以降のことに属するので、本件各株式につき議決権の行使を停止する実益は現在全く存しないから、本件仮処分をなすべき必要性がない。」
昭和二十八年(モ)第二六九八号事件について、
申立の理由として、つぎのとおり述べた。
「仮りに債務者等の前記主張が認められないとしても、本件仮処分についてつぎのような特別事情が存在する。すなわち、本件仮処分が取り消され債務者等に議決権の行使を許容せられても、元来議決権は会社機関の権限たるに過ぎないもので、これを行使したからといつて直接会社の経理に影響がないから、これがため債権者が損害をこうむることは殆んどあり得ないであらうし、また右議決権行使の結果債務者横井等が結局債権者会社の役員に選任されるようなことがあつても、それは多数株主の推挙にもとずくものであるから、これがため債権者が損害をこうむるということは考えられない。仮りに本件仮処分が取り消されたため債権者において損害をこうむるような結果が生じたとしても、それはすべて金銭的補償により容易に満足を得るものである。これにひきかえ、債務者等は本件仮処分を受けた結果株主総会において役員の改選、定款の変更、特に増資、これに伴う株主並びに役員等に対する新株の割当等の重大事項を審議するような場合においても議決権の行使はこれをなし得ないし、さればといつて同株式(時価一株につき最低金二百十円)は目下名義書換停止その他の理由によりこれが処分もなし得ないような現状に立ち至つているため不測(少くとも千万円以上)の損害をこうむるに至ることは明らかであり、その損害は前記債権者の受くべき損害に比しはるかに多大なものである。
右のような事情は、相当額の保証をたてることによつて本件仮処分を取り消すべき特別事情に該当する。」<立証省略>
三、理 由
昭和二十八年(モ)第二六四八号事件について、
まず、本件申請は不適法であるとの債務者等の主張について判断する。
本件仮処分は、独禁法違反を理由とする本件株式取得行為の無効確認ないし債務者等が債権者会社の非株主たることの確認の訴を本案訴訟とするものであるところ、独禁法の規定は、効力規定たる強行法規と解すべきことは後記説示のとおりであるから、同法違反を理由とする右本案訴訟事件が一般の民事事件として第一審の裁判権を有する当裁判所にその管轄権のあることは多言を要せずして明らかであるから、本件仮処分事件について当裁判所がその管轄権を有することもまた明白である。
なるほど、同法によれば同法違反事件について公正取引委員会が第一次的な審判権を有する旨並びに東京高等裁判所の専管事項として同裁判所が同法に違反して取得した株式につき議決権行使の一時停止を命じ得る旨規定するところがあるけれども、そうだからといつて、同法違反事件について第一審裁判所たる地方裁判所の裁判権を全く排除する旨の規定は全然存しないばかりでなく、またそのように解することもできない。
そうだとすると、本件につき当裁判所が管轄権を有すること明白であること前記のとおりであるから、債務者等の右主張は採用しない。そこでつぎに、本件申請の当否について判断する。
債権者会社が大正八年設立にかかる百貨店業等を営業目的とする債権者主張のような株式会社で東京都中央区日本橋通一丁目九番地二にその本店を有し百貨店業を経営し各種商品の販売をしてきたこと並びに債務者会社が昭和二十二年設立せられた資本金三千万円の株式会社で東京都中央区銀座一丁目二番地にその本店を有することは、いずれも債務者等の明らかに争わないところである。
よつて進んで右両会社が相互に競争関係にあるかどうかについて考察する。
証人黒川建亮の証言により一応その成立を認め得る甲第十五号証、同第二十号証、証人内村葆の証言により一応その成立を認め得る甲第二十二号証に前記各証人の証言を総合すれば、債権者会社は外国製日用品の販売指定店として昭和二十七年一月ごろより前記本店及び都内五反田、大森、丸ビル、及び高円寺に所在する分店等において衣料品(毛織物も含む、)テレビジヨン等の電気機械器具、化粧品及び食料品その他の外国製日用品を広く都内一円に卸並びに小売販売をなしてきた事実並びにその売上総額は昭和二十七年下期(同年八月より翌二十八年一月までに至る間)において約五億六千余万円程であつた事実を一応認めることができる。
他方成立に争ない甲第三号証、原本の存在並びにその成立に争ない甲第十四号証、証人渡辺建の証言により一応その成立を認め得る甲第十九号証に同証人の証言を総合すれば、債務者会社は昭和二十七年十月三十日附で通産省に対し外国製日用品の販売許可の申請をなすにあたり同申請書に当時債務者会社が肩書地本店においてせんい、機械器具、食料品及び化粧品その他の外国製日用品の小売販売業を営んでいる旨記載してある事実、右許可申請に対し債務者会社がおそくとも昭和二十七年十二月中に外国製日用品の販売店としてその指定を受けた事実、債務者会社が昭和二十七年十月より翌二十八年三月までに至る間の右商品輸入用として外貨七万八千二百四十弗の割当を受けている事実(もつとも、この事実は債務者等の自認するところである。)、右外貨の割当はS・P・S・の業者たる旧業者メリー・ミルドナーの昭和二十七年一月より同年三月までの間の同商品の小売実績を債務者会社の小売実績と認めてなされた事実、右販売店の指定並びに外貨の割当を受けるためには右商品の小売業者でありかつ小売店舗としての特色を発揮できる施設、立地条件及び人的要素を具備していること並びにこれに必要な取引能力及び資金能力を有することが不可欠の条件であつたこと等が一応認められるところ、これらの事実に債務者等の自認する債務者会社は前記本店ないし都内中央区銀座二丁目一番地に所在する店舗(シヨールーム)において電気冷蔵庫並びにテレビジヨン等の電気機械器具及び洋服地等の輸入卸売を営んできた事実並びに弁論の全趣旨により一応認めることができる右営業は債務者会社においておそくとも昭和二十七年一月ごろより営んできた事実を総合して考えれば、債務者会社はおそくとも昭和二十七年一月ごろより前記本店ないし都内中央区銀座二丁目一番地所在の店舗において都内一円を販路とし前記電気機械器具並びに洋服地その他の外国製日用品等の小売販売業を営んできたものであることが一応推認できる。
債務者等は前記商品の販売店の指定並びに外貨の割当はいずれもメリーコンパニーより委任を受けその輸入並びに販売を代行するためにその指定並びに割当を受けたもので、自らこれを受けたものではなく、事実これら商品の小売販売業は営んでいない旨を主張し、乙第二号証の一ないし四、同第六、七号証に証人菱田光男、両角潤の各証言並びに債務者本人尋問の結果は一応右主張に符合するところがあるが、前記各疏明資料にてらしたやすく信用し難く、その他右主張事実を認めて前段認定をくつがえすに足りる疏明資料は全然ない。果してそうだとすると、右両会社は、いずれも昭和二十七年一月ごろより通常の事業活動の範囲内において、かつ現状の事業活動の施設並びに態様において、東京都中央区を中心に都内一円をその販路となし、同種の商品を同一需要者に販売してきたか、または同一需要者に販売することができる状態にあつたものと一応認めることができるから、前記両会社は右日時ごろより国内において相互に競争関係にあるものといわなければならない。
仮りに債務者等の主張するように債務者会社は前記商品の輸入卸売を専業としてきたもので小売販売は全くしていないとしても、同商品は小売業者を通じ都内一円の一般消費者に供給されるものであることは自明であるから、結局同商品は債権者会社の需要者と同一需要者に供給してきたか、または供給することができる状態にあつたものと解するのが相当であるばかりでなく、債務者会社は前記本店ないしシヨールームにおいて右商品の卸売業を営んできたこと前記のとおりであるから、この事実に甲第二十四号証並びに同第二十六号証の一ないし三を総合すれば、債務者会社は右営業場所において通常の事業活動の範囲内で、しかも右営業の施設及び態様に重要な変更を加えることなく容易に右商品の小売販売をなし同商品を債権者会社の需要者と同一需要者に供給することができる状態にあつたものと推認することができる。この点債務者等は債務者会社はその事業活動の施設並びに態様に重要な変更を加えなければ債権者会社と競争関係は生じない旨主張するけれども、右主張は前記両会社の激しい対立を予想した強度の競争関係の出現を前提とするもので本件競争関係の有無の判断については適切でないから採用しない。のみならず債権者会社において右商品と同種の商品を卸売販売してきたことは前記認定のとおりであるから、右両会社は前同様同種の商品を同一需要者に供給してきたか、または供給することができる状態にあつたものというべきである。
つぎに債務者等は右両会社はその営業の規模を全く異にし債務者会社の販売する右商品は債権者会社の販売する商品中の一小部分において同種であるに過ぎないから、これをもつて右両会社を競争関係にあるものということはできない旨主張するけれども、仮りに右両会社の営業状態が右主張のとおりであるとしても、前記のとおり右両会社が同種の商品を同一需要者に供給しているか、または供給できる状態にある以上右両会社を競争関係にあるものと認めるに何ら妨げとなるものではない。(しからざれば、百貨店業に対しては少くとも百貨店業ないし多数商品を販売する事業者でない限り競争関係を生ずることはないこととなる結果、独禁法において一切の事業活動の拘束を排除しようとする目的を完全に実現し得ない。)
以上の次第で、いずれにしても債権者会社と債務者会社とは、いずれも昭和二十七年一月ごろ以降国内において相互に競争関係にあるものと断ずるべきである。
果してしからば、前記のとおり債務者会社が本件株式合計五十二万六千六百六十株を取得した行為は、独禁法第十条第二項の規定に違反するものといわなければならない。
よつてつぎに、債権者は債務者横井並びに同佐藤名義の本件株式の取得は、債務者会社が右債務者両名の名義で同株式を取得したに過ぎないもので実質上は債務者会社の株式取得であるから同法第十条第二項、第十七条の規定に違反する旨主張するけれども、かかる事実を認めしめるに足りる十分な疏明資料がないから、債権者の右主張は採用するに由ない。
そこで債権者はさらに右債務者両名名義による株式の取得は同法第十四条第三項の規定に違反する旨主張するので、この点について考えるに、債務者横井が本件株式合計十九万五千株を、同佐藤が同株式合計三十万株をそれぞれ買い受け取得した事実は、債務者等の自陳するところであり、右各株式の取得日時がいずれも昭和二十七年九月ごろより翌二十八年一月三十一日までの間であることは債務者等において明らかに争わないところである。
しかるところ成立に争ない乙第九号証によれば、債務者横井は昭和二十二年ごろより引き続き現在に至るまで債務者会社の代表取締役たる地位にある事実並びに同佐藤は昭和二十四年ごろより引き続き監査役たる地位にあつた事実及び同佐藤は昭和二十八年三月三日右監査役を辞任した旨の登記がなされている事実をそれぞれ一応認めることができる。
そうすると、同債務者等は債務者会社の役員でありながら前説示のとおり同会社と国内において互いに競争関係にある債権者会社の株式を前記のとおり取得したものであるから、右債務者両名(横井並びに佐藤)の株式取得行為は、いずれも同法第十四条第三項の規定に違反するものといわなければならない。
ところで、同法は同法に違反する株式取得行為の効力について明らかに規定するところはないけれども、同法は、その目的とする一切の事業活動の不当な拘束を排除し国民経済の民主的で健全な発達を促進するため、同法違反の行為があつた場合には単にその違反状態の事実上存在ないし出現を排除することのみでなく、さらに右違反状態を形成せしめた私法上の法律行為の効力をも否定しようとするものであることが同法の規定全体の趣旨からうかがい知られる。ことに、同法第十八条の規定によれば、同法第五条及び第九条第一項の規定に違反して設立せられた会社は、その設立行為を無効とする趣旨であるものと解することができるので、同規定の趣旨から同法は他の同法違反の行為についてもその効力を否定する趣旨であることがうかがえるし、また同法第百二条によれば、同法施行当時現存する契約で同法の規定に違反するものは、同規定施行の日からその効力を失う旨規定されているから、同規定の趣旨から同法は同法施行後においても同法に違反する新たな契約の成立をも否認し、その効力を否定するものと解することができる。
債務者等は、同法違反の行為を有効と解すべきことは同法第十七条の二の規定に徴し明らかであるばかりでなく、かく解しなければ取引の安全を害する旨主張するけれども、同法第十七条の二の規定は、同法に違反する事実行為(ないし事実上の状態)そのものを除去するための純然たる行政上の措置について規定したもので、私法上の効果の形成を目的とする処分ではないと解するを相当とするから、同規定をもつて同法違反行為を有効と解すべき根拠となし得ないし、またいわゆる取引の安全については商法その他の法律においていわゆる組織法上ないし善意者保護の見地からその安定を図つているから、この点からも独禁法違反行為を有効と解すべき根拠となし得ないので、債務者等の右主張は採用しない。
果してそうだとすれば、債務者等の前記各株式の取得行為は、債権者の爾余の主張について判断するまでもなく、いずれも独禁法に違反し、法律上当然無効と解しなければならない。
なお、債務者等は、債務者佐藤は、債務者会社の監査役を辞任したから右株式取得行為のかしは治ゆせられた旨主張するけれども、債務者佐藤の右監査役の辞任は本件株式を取得した後であること前記のとおりであるから、同債務者が債務者会社の監査役を辞任したからといつて無効な株式取得行為を有効にするのでないこと明らかであるから、債務者等の右主張は採用の限りでない。
そうすると、債権者は債務者等に対し右株式の取得行為無効確認ないし債権者会社の非株主たることの確認の訴を提起することができるものといわなければならない。
よつて進んで、本件仮処分の必要性について判断する。債務者等に対し本件各株式につき議決権の行使を許容するにおいては、前記に認定したように債務者等が短期間内に債権者会社の株式を合計約その四分の一を買い集めた事実、証人中田専二の証言により一応その成立を認め得る甲第十七号証に同証人の証言を総合して認めることができる債務者横井は昭和二十八年二月一日ないし同月四日ごろ債権者会社に対し同人が現在同会社の株式を百二十万株を所有しているので同会社の副社長となる資格がある旨を告げて同会社の副社長の地位を要求した事実及び一事業者が他の会社の多数株式を所有することは企業結合ないし事業支配力の集中の基本的手段とされてきた事実を総合して考察すると、債務者等はいつなんどき右議決権を利用し債権者会社をして株主総会を開催せしめ、それを機会に同会社の経営に参与したり或はその他の方法により債権者会社の事業を支配し、同会社の事業活動ないし取引に不当な制限を加えるに至るおそれなしとしないし、かくては債権者会社において回復することのできない有形、無形の損害をこうむるであらうことが一応推認できるから、本件仮処分をなすべき必要性があること勿論でその疏明がある。
よつて、当裁判所がさきに債権者の本件仮処分申請を認容してなした前掲仮処分決定は相当である。
昭和二十八年(モ)第二六九八号事件について、
債務者等は本件仮処分を受けた結果債権者が本件仮処分を取り消されることにより受くべき損害に比し、はるかに多大な不測の(少くとも千万円以上の)損害をこうむるに至る旨主張するけれども、債務者等において本件仮処分の結果損害をこうむつたであらうことは想像に難くないが、その損害は本件の如き仮処分に伴う通常の損害の範囲をいでないと考えられるし、右損害の範囲を超えて債務者等の主張するような多大な損害をこうむるに至るとの点についてはこれを認めしめるに足りる疏明は全然ない。つぎに、債務者等は、債権者が本件仮処分を取り消された結果受くべき損害はすべて金銭的補償により容易に満足を得るものである旨主張するけれども、本件仮処分において債権者が保全しようとする利益ないし法律関係は、債務者等が債権者会社の非株主たることを確定し、債務者等が債権者会社の運営に参与することを排除することにあるから、金銭的補償を得ることによりその終局的の目的を達することを得べき性質のものではない。
以上の次第で、本件については、債務者等の主張するような前掲仮処分決定を取り消すべき特別事情の存在は、これを認めることができない。
よつて債務者等の本件申立はいずれも失当として却下すべきものである。
以上のとおりであるから、当裁判所がさきになした前掲仮処分決定は相当としてこれを認可すべく、債務者等の申立はいずれも失当として却下すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十五条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷口茂栄 西塚静子 唐松寛)